◇第四章 株価の基本的な動きを学ぶ
* 株価は底から天井まで一気に上昇しない *
シーズンを通してプロ野球を観戦していれば、春に開幕してから秋に優勝が決定するまで、同じようなペースで勝ち続けるということは、まずない。4月、5月は2勝1敗のペースで試合をこなしていても、6月はわずかに負け越して、7、8月はまた2勝1敗のペースで勝ち進む・・・のような波があることはわかるであろう。
株価の上昇あるいは下落の過程も同様に、一気に進むわけではない。大きく上昇したかと思えば下落し、また大きく上昇したかと思えば下落する・・・を何度か繰り返しながら上昇するのである。
この考え方は、国内、海外問わず、株式売買等のテクニカル分析には一般的に取り入れられている。エリオットの波動理論が代表的だ。
図9は、段を形成しながら下落、上昇する様子を簡単に表した図だ。
大きく上昇している途中の、一時的な下落を「押し」といい、大きく下落している途中の、一時的な上昇を「戻り」という。
このような株価の基本的な動きを理解した上で、どこで投資(買い)をおこなうのが効果的なのかを考えてみよう。
まずは前章の「斜線を切る」ところについて、次の2つの文章を理解していただきたい。
株価の流れが、下落から上昇に転じる際には、必ず下落の流れを表す上値斜線を上に切らなくてはならない―、さらに
上値斜線を切らずに大きく上昇することは決してないが、下落途中の上値斜線を上に切ったからといって、必ずしも上昇するわけではない―。
一見、矛盾するように感じるこの2文は、常に心しておかなければならない。上値斜線を上に切った後にすぐに反転、再度大きく下落して、下落途中の一時的な戻り相場になることは実に多いし、上値斜線を切ったものの、株価は上昇せずに同じような株価の位置で保ち合う相場に入ることも多々あるのだ。
すなわち、大きな流れが下落していると判断できるとき、その流れを表す上値斜線を切ったという事実は、尊重すべきことではあるが、全ての財産を注ぎ込んで投資する(買う)状況ではないのである。
気付けば再度、下落の流れの中に戻る可能性のある「底」をとらえるということは、非常に難しいということを頭に入れていただきたい。
では、よりリスクを軽減して投資をおこなうのには、どこで出動したら(買ったら)よいのであろうか。
株価は大きく上昇する際に段(あるいは波動)を形成しながら上昇すると述べた。何段上昇するかは誰にもわからない。しかし、柴田罫線理論の生みの親である柴田秋豊氏によれば、少なくとも大きな流れが上昇に転じたと判断できたとき、その上昇が1段で終了してしまう統計上の確率は1割程度であるという。
逆にいえば、2段以上の上昇をつける場合が9割もあると記述しているのである。
ここに、投資をおこなう際のリスクを軽減させる、大きなポイントがある。
つまり、大きな流れが確実に上昇に転じたと判断できたのならば、その1段目の上昇をしっかり見届けて、いったん下落後(押し)の再上昇時に投資をした方が、リスクが少ないのである。
図9をもう一度みていただきたい。大きな下落の流れ(上値斜線)を切ったAで買い投資をおこなうことは、再度下落に入る可能性もあり、大きなリスクを負う。
しかし、大きな下落の流れが上昇に転じたと仮定できる程の、大きな上昇を形成した後なら状況が異なる。目先、下落に転じる(目先の上昇時の下値斜線を下に切ったB点に示すところ)ものの、その下落が大きく下落しないで再度上昇に転じた(目先の下落時の上値斜線を上に切ったC点に示すところ)点で、新規に株式を購入すれば、A点(底)で購入する場合よりもリスクが少ないといえるのである。なぜなら2段以上の上昇相場が形成される割合が、9割もあるからだ。
例え変化点としてのCをうまくとらえることができなくても、時間の経過とともに株価は再上昇に転じる場合が多いのである。
これがA点なら、A点を起点に大きく上昇した際に得られる利益は大きい。しかし、A点だと思っていた所が、仮にD点であったのならば、どうなるであろうか。再下落時に俊敏に手仕舞い(買った株式を売却すること)をしなければ、大きな損失を抱えることになってしまうのである。
「底」と思って買ったものの、実は下げている途中の「戻り相場」に手を出してしまい、その後に塩漬け銘柄になってしまったという例が、個人投資家には非常に多いのである。
ただ、その多くは上値斜線切りも確認しないようなところでの買いではあるが。
この、2段目の上昇をとる考え方は昔からあり、相場の格言にもある。「相場は一の膳より二の膳の方が味(投資妙味)がある」といわれるものだ。
多くの段を形成してきた銘柄をみてみると「天井三日、底百日」という格言の如く、「一の膳」すなわち1段目の上昇をとらえることはたいへん難しいことがわかる。仮にとらえられても、1段目の上昇は長い時間を要する場合も多い。
それに比較すれば、「二の膳」すなわち2段目の上昇は、より短期間で急上昇する場合が多い。図10、東京ディズニーランドを運営しているオリエンタルランド(東証1部4661)の週足チャートを参照していただきたい。
1998年10月の安値4300円から上昇に転じた株価は、大きく3段に分かれて上昇を形成した。1段目の上昇は、なかなかその流れが安定せず、その上昇期間も1998年10月13日の安値から翌年6月23日の高値7700円まで、8ヶ月間以上にも及んでいる。そこでの値幅は、3400円ほどだ。2段目の上昇は1999年8月13日の安値6500円から同年11月5日の高値11100円までの3ヶ月弱の期間で、値幅は4600円にも及ぶ。
その流れを表す下値斜線を引線してみれば、その角度が切り立っていることがよくわかるであろう。2段目をとらえることを基本として、投資していただきたい。
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