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第四章 株価の基本的な動きを学ぶ

相場の基本は3段の動き

株価は、3段階に分けて上昇するのが基本といえよう。ここでは、その意味を理解していただきたい。

ゲームなどの試合運び、あるいは文章の作成も基本的な流れをしっかり押さえることが肝心だ。文章の作成ならば「起承転結」という流れの元で作成されるであろう。では実際の文章ではどうかと問われれば、4つの区分に分けることができるほうが少ないぐらいだ。しかし、「起承転結」をわからないで文章を書く人はいないのである。

株価の流れも同様だ。実際の株価の上昇が、必ずしも3段で終了するわけではない。2段の上昇もあれば、4段、5段と上昇し続ける相場もある。基本となる3段の動きをしっかり理解することによって、それ以外の動きも分析できるようになるのだ。

実際に株価が3段上げで上昇した例として、図11の日産自動車(東証1部7201)をみてみよう。この時の上昇をファンダメンタルズから検証すると、おおよそ次のような上昇と判断できよう。

日産自動車がフランスの自動車会社であるルノーの出資を受け、その会社から迎え入れた新社長(CEO)がカルロス・ゴーン氏だ。ここでの上昇は、そのゴーン氏が就任後に打ち出した「日産リバイバルプラン」が評価されていく過程での上昇といえるであろう。

しかし、そのプランが発表された1999年10月から、株価が上昇したわけではない。実際には発表直後から株価は下がりはじめ、直近の高値から2000年2月の安値まで株価は半分以下になったのである。ルノーと提携後に大きく上昇してきた株価だったが、多くの投資家はその再生を具現化したリバイバルプランをうまくいかないと判断したようだ。つまり、ここが日産自動車の株価の限界とした投資家の売りの力が、株価を大きく下落に転じさせたのであろう。

その後400円付近で何度か上昇下落を繰り返した後、2000年4月ごろから株価は上昇に転じたのである。しかし、この上昇局面では日産自動車に関する良いニュースはあまり聞かれなかった。どちらかといえば、リバイバルプランによって下請けの中小企業の経営が厳しくなるとか、工場閉鎖で地域経済や従業員の厳しい現実を、日本経済の悪化に重ね合わせた特集がさまざまなメディアに取り上げられていたのである。

もちろん、雑誌の推奨銘柄に掲載されることもなく、証券会社からの推奨もない状況であることはいうまでもない。

その後に発表された良いニュースは、リバイバルプラン発表の1年後、2000年10月30日に配信された、「過去10年間で最高の連結営業利益見込み」というものだろう。しかし、株価はそのニュースが発表される直前に2段目の急騰をして、そのニュースを境に下落に転じたのである。

その後、2001年3月に村山工場を閉鎖、同年5月には決算で過去最高の利益を計上するなど、その実現性を疑問視する投資家が多かったリバイバルプランが、着実に実行されていることや、収支関係も劇的に改善されていることがニュースとして連日配信されていたのは、株価が安値をつけてから1年以上経過した頃だ。

今からチャートをみれば、日産自動車を見る目、カルロス・ゴーン氏を見る目が明らかによくなってきたときが、この上昇局面の天井だったのである。

ニュースや、雑誌の推奨銘柄情報を銘柄選定の判断材料として投資をおこなっている投資家が、日産自動車で大きな利益を上げることはたいへん難しいことがおわかりいただけたであろうか。

さまざまなニュースを聞いたり、四季報等でネガティブな情報を得たりして、とても怖くて投資できないときに買い場があり、逆にこの株は安心して買えるなどと思ったときが売り場になるのだ。
日産自動車はその好例だろう。

では、この上昇過程において、どのような投資家がどこで株を買って、どこで株を売っているのであろうか。

日産自動車をよく知る人間の数は膨大である。その社員、あるいは下請けや関連会社の社員、その家族、友人などだ。その中で株式投資を実際におこなっている人、あるいはおこなおうとしている人は相当いるであろう。

会社がどのような雰囲気なのか、景気がどうなのかを最も敏感に感じとることができるのは、そこで働いている人間である。社長が代わって、社内がどうなってきたのか、社長の方針はこの会社を再生できるものであるのか、社員同士の議論も生じるであろう、他の部門の変化も耳にするはずだ。もちろんショールームに来るお客が増えたかどうかなどの、直接的な変化を感じることができるのも、社員だ。日産自動車は変われると確信し、株を買ってくるのである。

一万株未満であればインサイダー取引ではないものの、内部をよく知るものしか買えない状況といってよいだろう。これが、3段上げの1段目における主な買い手である。

では、2段目の上昇の主な買い手はどのような投資家であるのだろうか。

2段目で買ってくるのはプロフェッショナルな投資家である。

プロフェッショナルな投資家とは多額の資金を運用しているヘッジファンドや機関投資家などだ。彼らの主な投資手法は「ファンダメンタルズ分析」といわれるものによる。投資対象を誰よりも詳しく分析をするのである。日産自動車ならば、改革の実現性はどうか、進捗状況はどうか、利益はどうか、利益率はどうか、もちろん発表される前に事前予測をたてるのである。直接会社に取材をしたり、社長にまで質問することもあるのだ。

そのように血眼になって収集した情報を元に、将来の株価を推定し、その株価が現在の株価より高ければ買うのである。時間とお金を十分にかけて、きちんとした分析をおこなって投資をする――、これがプロフェッショナルな投資家の「ファンダメンタルズ分析」による投資法だ。

日産自動車の改革がうまくいき、将来株価が上昇するであろうという、プロが出した分析結果が、一般投資家に届くわけがない。自分たちが多額の経費をかけ、詳細に分析した結果を、どこの誰が無料で公表するというのだ。

彼らにしてみれば最高機密情報だ。もちろん目標株価に達すれば機械式に利益を確定させる。もっと上がるかも知れないと持ち続けることはしない。トレードルールに従って利益を確定しなければならないのである。

3段上げの最終段(3段目)はどうであろうか。

ここで買ってくる主体は個人投資家である。

次第に良い情報が流れはじめ、買い安心感が広がるためだ。はじめはカルロス・ゴーン氏の手腕に疑問を持っていた(正しくいえば、疑問を持っていた評論家の意見を聞かされ続けたために自分も疑問を持ってしまっていた)投資家も、絶賛するようにまでなってしまうから情報というものは恐ろしい。買いが買いを呼び、株価は再度急上昇したのである。

しかし、誰もが安心して、心理的にその株を買えるようになった時が天井であることが多い。その後、日産自動車の株価は、高値から半分になってしまったのである。

証券会社の営業マンはこのようにいうだろう。「同時多発テロが起きて、株価が急落してしまった。同時多発テロなど予想外ですからしょうがないですよ」と。

図11のチャートをもう一度みていただきたい。同時多発テロは2001年9月11日だ。チャートでみれば、流れは完全に下落に転じている状況の中で起きていることはわかるであろう。急落途中に起きたテロは、確かにその後の下落を早めたかもしれない。しかし、高値でこの株の購入を薦めた言い訳にはならないことは明白なのである。

もちろん急落後にこの銘柄を薦める証券会社はない。

その後再上昇して、高値を抜いた日産自動車ではあるが、今、高値にあるからよいのでは株式で利益を上げることは不可能だ。いったんは、資産が半分になった事実をしっかり受け止めて、買う(売る)べきポイントを学んでいただきたいのである。株価が上昇する際の基本3段上げについて、右図にまとめたので参照していただきたい。

その中で投資をおこなうのに最も適しているのはどこであろうか。
回答は第10回に記述したとおり「相場は一の膳より二の膳」、すなわち2段目の上昇時に投資を行なう(上昇に便乗する)ことが基本であるといえよう。

確かに1段目の上昇時にうまく買うことができれば、大きな利益を望める。しかし、それは大底をとらえるということで、下落過程の一時的な上昇である場合も多く、「天井三日、底百日」の格言の如くたいへん難しい。高リスクといえよう。

それに対して2段目の上昇は、「2段以上の上昇が90%」という統計的な後ろ盾がある。買うポイントをうまくとらえることができなくても、何とか上昇に転じることも多いのが2段目だ。

更に、2段目の上昇は1段目に比べて短期間に急上昇する傾向がある。投資効率が高いのである(どれぐらいの時間で、どの程度資産が増減したか)。
重要なポイントだから、第10回の図9をみて、もう一度復習していただきたい。

株価の上昇過程について3段上げを基本として記述した。しかし、実際の相場では必ずしも3段で上昇するわけではないし、その理由もここに解説したばかりではない。

将棋やサッカーの対戦方法、あるいは英語で会話するということでも同じだ。複雑なことになればなるほど、基本が大事なのである。基本をしっかりマスターして、はじめてその応用が理解できる。

実際に将棋で対局しているとき、はじめから最後まで駒の動かし方が同じということは、一度としてないだろう。外国人と会話しているときも同じだ。10分間の会話で、一語一句全く同じ会話をするということはまずない。

株価チャートも同様だ。同じチャートなど存在しないのである。しかし、基本を理解していれば、その変形も整理して理解することが可能となるのである。

 

表面化したニュースだけで株価が上昇すると考えてはならぬ
誰もが他人より有利な情報を求め、調べ、投資をするのだ
しっかり「プロ」が分析した結果、着実に買われ、
上昇していく2段目を狙う(便乗する)のが基本

 

      

 

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