◇第五章 相場の老若と注意する株価の位置
* 保ち合い相場の老境 *
前回に相場の老若について述べたが、保ち合い相場にも老若があることを忘れないでいただきたい。特に保ち合い相場の老境には注意が必要だ。
保ち合い相場は時間が経てば経つほどエネルギーが蓄積される。その保ち合い相場が崩れるときには、相場が大きく動くことが多いからだ。
保ち合い相場の中では売買は控えるのが原則だ。しかし、その保ち合いが長期間にわたって続いているならば、例え投資を行っていなくてもチャートで相場を観測し、その保ち合いから放れる際には最大限の注意を払うべきだといえよう。
ここでいう保ち合い相場とは、上値線と下値線が水平の平行保ち合い相場である。保ち合っている値幅と、時間をみていただきたい。その形が図30に示すように、縦(値幅)と横(時間)の比率をみて、横のほうが大きければ大きいほどエネルギーは蓄積されるというのが一般的な見方だ。
株価がある狭い値幅の中で長期間あるということは、その株を売りたいという投資家の「売る力」と、買いたいという投資家の「買う力」が拮抗していることを表している。その拮抗している時間が長ければ長いほどエネルギーは蓄積されていくのである。(保ち合い相場の章を参照)
そのような状況(保ち合い相場)から、株価が上に放れたとしよう。
個人投資家が、その会社について調べても何のニュースも無く、知り得るファンダメンタルズに関する情報に、何の変化もなければ要注意だ。
そのような場合は、一部の有力な情報を握った投資家が、まとまった買いを入れはじめたり、仕手筋(株価を吊り上げて、多くの投資家がつられ買いをしたところで売り抜ける筋)が、仕込みをはじめたりする場合などが考えられるからだ。
宮越商事(東証1部6766)は、仕手株といわれる銘柄の一つだ。その日足チャート(図31)を参照していただきたい。
長期間にわたって狭い値幅の中にあった株価が、明らかに今までとは違う上昇を形成したのがAに示すところだ。どのような理由かを探している時間は無い。何らかの材料が表面化するときには、既に仕手筋の仕込みは終了し、そこから買い上げてくる投資家は彼らの餌食になるのである。
その上昇についていくためには、実際に動いたという証拠(チャート)をしっかりみる(観測する)しかないのである。いくら仕手筋といえども、仕込む(株式を購入する)際には相場を動かしてしまう(株価が上昇してしまう)、という事実を認識していただきたい。
もちろん、これは仕手株だけの話ではない。例えば、長期間にわたって保ち合っていた株価が下がりはじめ(下落方向に放れ)れば、バランスが崩れたことを意味しているのである。
それは、日本独特といわれる、企業間同士の持ち合い解消の売りがはじまったサインかも知れないのである。しかし、そのようなこと(売り方の理由)が個人投資家にわかるはずがない。
もう一つ実践的な応用例を示そう。図32はストロベリーコーポレーション(ジャズダック3429)の日足チャートである。
株価がわずかの値幅の中で拮抗して(保ち合って)いたところ、明らかにその緊張の糸が切れたようなサインが出現したのがAに示すところだ。その後株価は大きく上昇した。ここはわかりやすい。
さらに大きく上昇した株価は、その高値の位置で、上昇下落を繰り返した。中期や長期投資スタンスの投資家が一生懸命に売買してもなかなか利益がとれない往来相場だ。
しかし、そのような相場も時間の経過とともに、徐々に売りの力が弱くなってきていることはチャートを観測していればわかるであろう。BからFに至るまでの下落角度をみていただきたい。何日間でどれ程下落したのかがわかるのが斜線の角度だ。
限りなく水平に近くなったFの斜線が示す付近は、8月から12月に至るまでの株価が大きく変動していたころと比較すれば、非常に緊迫している状態であることがわかる。そのような状況で、Gのような陽線が出現すれば、そこも一つの買い場だ。
更に、大きな流れをみたときの保ち合い(往来相場)上値斜線を切ったHや、8月の前高値を力強く上に切ったIと、より強い買いサインが次々と出現したのである。その後の株価の動きはいうまでもない。
原点に戻るが、株価は買う人がいなければ決して上昇しないし、実際に買ってくれば、どのような投資家であれ、いくら身を潜めていても株価は上昇するのである。
一般の個人投資家が、表面化した情報だけで投資を行うということは、プロの投資家に絶好の利益確定の場を提供しかねないのである。
個人投資家が、一人で株式相場という戦場を戦い抜くには、より強い勢力をいち早くみつけ、その勢力についていくしかないのである。
広い戦場の中で、どの勢力が強いのかを知るためには正確な情報を入手しなければならない。その唯一正しい情報とは、取り引きされた株価そのものであり、それを連続表示した株価チャート以外に何があるというのだろうか。
株価は全ての投資家が真剣に売買して決まるものである。個人投資家が知るよしもない情報を元に、巨額の資金を持った機関投資家等も参加しているのである。
株価が長期間にわたって保ち合い相場を形成しているならば、例え何のニュースも表面化していなくても、放れを観測した場合には俊敏に売買しなければならないことを肝に銘じていただきたい。
逆に、その会社に関する良いニュースが表面化しても(個人投資家が知ることができる状態)、株価が全く反応(上昇)しなければ、それこそ要注意だ。これは保ち合い相場に限ったことではないが、良いニュースが出たのにプラスに反応しないということは、多くの投資家(プロフェッショナルな投資家を多く含む)は、そのニュースを既に予測して、買ってきていたということであり、もし下げに転じるようなことがあれば、そのニュースより良い状況が当面期待できない(だから売る)ということだからだ。
しっかりと事実(取引された株価)をみる(観測する)ことが、いかに大事なことかを、再度理解していただきたい。
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