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第五章 相場の老若と注意する株価の位置

株価の動きが止まる位置

上昇してきた株価は、いつかは上げ止まる。再度上昇するかどうかはともかく、株価は止まっては動くことを繰り返す。事前に止まる位置がわかれば、どれ程すばらしいことであろうか。
しかし、現実においては、未来がどうなるかなど誰にもわからない。

ただ、柴田罫線理論を知ることで、動いてきた株価が止まりやすい位置、注意しなくてはならない位置は事前にわかるのである。これを知っているだけでも、投資成果は全く違う。その理由を含め、株価の動きが止まりやすい位置を学習してみよう。

【例1】
Aさんは、長期保有しているT社の株式で大きな含み損を抱えている。
1年前に最安値をつけた後、株価は緩やかながら上昇してきた。しかし、ここのところ再度下落傾向だ。Aさんは、T社の株式の売却を考えるが、なかなか踏み切れない。

その際に、一つの基準になるのが1年前の最安値だ。いったんは、その安値まで我慢して持ち続けていたわけだから、その安値までは耐えられるのである。今ここで売っても、大きな損失を確定させることには違いない。だったら、もう少しみてみようとなるのである。

ただ、その最安値を下回れば、状況は異なる。これまで耐えたことのない株価水準であり、いよいよT社倒産か、などのニュースでも耳にすれば、紙くずになる前にと売却を急ぐであろう。
分岐点は1年前の最安値だ。

【例2】
BさんはかねてからT社の株式を購入したいと考えていた。
1年前に最安値をつけた際に買いそびれて、悔しい思いをしていたのである。しかし、ここのところT社の株価は下落傾向だ。安値で買えるチャンスが再度やってきたのである。今度こそ最安値で購入するぞと、狙いを定めてみている株価は、まさに1年前の最安値だ。
もちろん、あっさりと最安値を更新すれば、いったん留保するであろう。もっと安く買える可能性が出てきたのに、買い急ぐ必要はないからだ。

わかりやすいように、個人投資家の例を挙げたが、機関投資家などのプロの投資家も考え方は同じだ。
すなわち、誰もが意識している株価の位置では、これまでの株価の流れ(上昇、下落)が止まりやすく、その位置で反転することも多いのである。

上昇している相場ならば、過去の高値は目標株価としてみる投資家も多い。その目標株価とは、その株価付近で利益を確定させる目安としている株価をいう。
当然、多くの投資家が注目している高値(目標株価)に到達すれば売りの力が増加し、いったん下落しはじめれば、多くの投資家も追従しはじめる。流れが変化するのである。

注意しなくてはならない株価の位置を知れ!
知っているのと知らぬとでは投資成果に雲泥の差が出る!


この前安値、前高値を含めて、注意しなければならない位置がいくつかある。

① 前安値、前高値の位置
② 株価の流れをとらえた上値斜線や下値斜線の位置
③ 下げ途中の戻りの高値や上げ途中の押し目の安値位置
④ 下げ途中の安値、上げ途中の高値の位置
⑤ 前保ち合いの中心位置
⑥ 保ち合いから放れた際の上値線あるいは下値線の位置

図33、アサヒビール(東証1部 2502)の月足チャートで順番に説明しよう。

①の前高値とは、1993年につけた1290円付近の高値に対して、その3年後に再度上昇してきた株価が止められた、1996年6月、7月の1290円のような位置である。

前安値とは、1995年3月の929円という安値に対して、大きく上昇後に下落してきた際に、その下落がいったん止まって反転した2000年9月の株価水準のような位置をいう。

同様に、2001年の高値と2005年の高値、その位置は過去にさかのぼれば1991年の高値の位置とも重なる。
1997年の高値も、バブル期の高値の一つとほぼ同じ株価なのである。

②でいう上値斜線の位置での停滞、反転とは、これまで解説してきた内容そのものである。
大きく下落した株価の流れをとらえるのが、1997年12月の高値から、1999年8月の高値を結んだ上値斜線だ。
多少の修正を加えながらも、2001年の高値や、2002年の戻り高値が、その位置で抑えられていることがわかるであろう。
上昇の流れをとらえた下値斜線ならば、2003年8月の安値からの斜線を参照すればよくわかる。

③の下げ途中の戻りの高値とは、下げ途中にあった中で2002年5月につけた戻り相場の高値位置1267円付近で、上昇に転じた後の2004年4月に、その上昇をいったん止められた株価水準を指している。
③と①の境界は厳密ではない場合もあるが、その違いをそれ程意識する必要はないだろう。

④の上げ途中の高値は、少しわかりにくい。先程と同じ2004年4月につけた、上げ途中の高値1279円をみていただきたい。その高値の後、いったん押し目を形成してから再上昇している。
2005年3月に高値をつけた後、再度下落したが、その際の下げ止まりの株価として、先程の高値の位置を観測する必要があるのである。
つまり、高値を上げ止まりの位置としてではなく、下げ止まりの位置として観測するのである。

⑤の、保ち合いの中心値というのも見過ごされる場合が多い。しかし、重要なポイント(位置)なので、認識しておいて欲しい。
保ち合い相場とは、売りの力と買いの力が拮抗(きっこう)して、ある価格帯に一定期間、株価がある状態だ。

そこは多くの投資家が売買をおこなったところである。どのような投資家であれ、自分が売ったり買ったりした価格は、その後の売買の基準になり、記憶している。保ち合いの中のどこで売買したかはそれぞれだが、単純に考えれば、その売買した株価(それぞれが意識している株価)の平均値が、保ち合いの中心値であるのだから、そこは株価の流れがいったん止まったり、変化したりしやすい株価の位置となるのである。

図33の中では、少しわかりにくいが、1991年に高値で保ち合った際の中心位置(株価)が、2年後の1993年の高値となっていることがわかるであろう。

⑥の保ち合いから放れた急所については、図33の中にそのわかりやすい例はない。
ただ、これも考え方は同じで、長期間にわたって超えることができなかった高(安)値を超えたとき、その株価は多くの投資家に節目として刻み込まれるから、注意して観測するべきなのである。

これらの他にも、長大陰線や長大陽線の起点位置や、窓(その日の安(高)値と前営業日の高(安)値との間に空間ができること)をつけた際の前営業日の高(安)値の位置、更に日経平均ならば10,000円や20,000円のような切りの良い数字も、注意する必要がある。

株価が止まる位置には意味がある!
そこは多くの投資家の心に刻み込まれた因縁場!


最後に、「株価の動きが止まる位置」を観測する上での重要注意事項をいくつか記述する。

 
注意① 「株価の動きが止まる位置」で止まらない場合がある。

ここまで説明した「株価の動きが止まる位置」がわかると、上昇していれば、その位置で反転下落すると決め付けて売る人がいるが、その位置はあくまで注意する位置であり、仮にその位置を力強く通り越せば、それこそ流れに勢いがつくことがあるということを忘れてはならない。

つまり、この章でいう株価の位置とは、あくまで「注意」する株価水準なのだ。反転下落すれば「売り方針」、逆に通り越せば「更に買い」となることもあるのである。
一つの分岐点ということを認識していただきたい。

図33の1997年4月をみていただきたい。それまで5年間にわたって超えることができなかった1290円付近の株価を、一気に突破している。
その意味するところを復習する。
この高値を超えたときに、投資家の心理はどうなるのかということを知っていただきたいのである。

1993年の高値で購入した投資家、あるいは1996年の高値で購入した投資家は、その後の株価下落時に含み損を抱えることになる。
もうだめだと、そのまま塩漬けになっていた株式が、再びよみがえるのが再度高値に近づいてきたときだ。その際に、また含み損を抱えてはたまらないと、売りの力が増すのである。

ただ、それらの売り玉を全て吸収するほどの、圧倒的な買いの力(上昇)があればどうだろう。過去5年間に超えることができなかった高値を、あっという間に抜けたのである。
その瞬間に、投資家の心理が変化する。急いで売る必要がなくなるのである。

この高値を超えるということ、それは過去5年間にこの株を買って保有している投資家は、誰一人として損失を抱えなくなるということなのである。
保有している株式に含み益が生まれれば、心理的に「余裕」ができることは、投資家の誰もがわかるはずだ。
だから、その高値を超えたとき、売りの力が急減し株価は急騰。翌月には1991年の高値も突破し、バブル期の株価水準まで到達するのに、それ程時間はかからなかったのである。

つまり「株価の動きが止まる位置」で止まらなかったら、それこそ注意しなければならないということなのである(例えば単に前高値に到達したという理由での安易な信用売り)。
この章の「株価の動きが止まる位置」とは、「注意しなければならない株価の位置」ということを覚えておこう。
 
 
注意② 「注意しなければならない株価の位置」で何度も止まるとは限らない。

「注意しなければならない株価の位置」で、一度止まって反転したのならば、再度その位置にきた際にはどのように観測するのが良いのだろうか。

二度目も同じように反転下落する可能性は、一度目よりかなり低いとみるのが原則だ。
なぜなら、一度は反転下落したという事実を投資家の誰もが知った上で、再度その位置まで買い上げられてくるということは、その高値を上に超えると信じているからであり、より高い位置をみている投資家が多いからである。
図33の中でも、2度目、3度目は「注意しなければならない株価の位置」をすんなりと通過する例もあることがわかるであろう。
 
 
注意③ 「注意しなければならない株価の位置」では、株価は不安定な動きをする。

ここまで読んでいただければ、これらの位置で株価の動きが変化する可能性が高いということが、よく理解できたかと思う。
よし、これからはこの位置で仕掛けるぞと決心した投資家もいるであろう。ただ、この位置は、本当に難しい位置であることを忘れないでいただきたい。

例えば、買いたい投資家が少しでも高値を上に抜けたときに買ってしまうものの、後からみればほんの一瞬の飛び出しであったり、売りたい投資家がその高値に到達後に少しでも反転下落すればすかさず売り(信用売り)を仕掛けてしまうものの、その後に高値を大きく超えて上昇したりと、一筋縄ではいかないのがこの株価の位置なのである。

ここで「注意しなければならない株価の位置」を学んだのならば、この位置を「過去にできた、多くの投資家の意識する因縁場であり、不安定な動きをするところ」と覚えていていただきたい。
少なくとも、目先の斜線切りなど、反転した際の順張りサインが確認できない時点で、「この位置で反転する」と決め込んだり、まだその位置に達していないのに「この位置を通過する」というように断じて決めつけてはならないのである。

 

投資家の想いが交錯するのが「株価の止まる位置」!
不安定な動きをするのは当たり前!

 

    

 

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