◇第七章 周りの状況をしっかり把握し、銘柄を選定する
* 日本株全体は上昇か下落か *
ここまで、チャートの観測の重要性、ポイントを記述してきた。ここで、実際に投資をおこなうにあたって重要な話をしよう。
たいへん物騒な話だが、ある意味わかりやすい例なのでご容赦願いたい。
人類の歴史は戦争(戦い)の歴史といっても過言ではないが、その戦争を例に考えていただきたいのである。
あなたが、これから戦争に行くことになったとしたら、まず何をするのかを考えていただきたい。自分の命がかかっているとするならば真剣だ。
まず、おこなうのは現状の戦況分析だろう。国全体は現在押している途中なのか、押されている途中なのか、あるいは一進一退のにらみ合いの状態なのか、大きな流れを確認するのである。
株式相場に参加することも全く同様だ。日本株全体は「上げ方向」なのか、「下げ方向」なのか、あるいは一定の株価の水準で停滞しているのか(保ち合い相場か)。
同じ価格帯にあっても、小康状態の場合もあれば、売り方と買い方が激しい応酬を繰り返すものの、一進一退という状況もあるだろう。
本当の戦争ならば、参加するか否かは本人の意思が尊重されることはまずない。ただ、いつ参戦しても良いということになれば、当然、日本国全体が押しているときに参戦するであろう。何も押されているときに参戦することはない。
株式相場も全く同様だ。戦争と違い、いつ売買(参戦)するのかを決めるのは自由なのだから、なるべくリスクを小さくしなくてはならない。
日本株全体が上昇基調に買い投資をおこなうのと、下落基調に買い投資をおこなうのではその投資効率は全く違う。
日本株全体の大きな流れが下落基調でも、力強く上昇し続ける銘柄は確かにある。日本株全体が下落基調にあるとき、大きく値上がりする銘柄はとても目立つ。しかし、その銘柄が上昇し続けるということが、例外であることをしっかり認識していただきたい。
例外を探すということは、宝くじを当てることと同じぐらい難しいのだ。戦争を例にするなら、日本国全体が押されているときに、一人元気に突進している兵士(銘柄)がいたとしても、その兵士について行く(買う)ことは、決してしないであろう。大事な命(お金)がかかっているのだから。
では、株式投資をおこなおうとした時に、何をみて日本株全体を分析すればよいのだろうか。
代表的な指標に日経平均株価225種(以下日経平均株価)と、東証株価指数TOPIX(以下TOPIX)がある。
その計算方法や銘柄の選定法の違いなどから、TOPIXの方が株価の連動性が確保され、日本株全体の動きを表す指数としてふさわしいという声が多い。
しかし多くの投資家が、日本株全体の動きを観測する際に日経平均株価も参考にしているということも事実だ。多くの投資家がみているという事実がある限り、投資家はTOPIXに加え、日経平均株価もみる必要があるといえよう。
図44はTOPIXの週足チャートだ。実際に日本株全体の大きな流れをみて、どのような投資行動をとればよいのかをみてみる。
大きな流れを表す斜線は、A~Dだ。その斜線を切ったときが、一つの転換ポイントになる。近年のTOPIXの斜線は、その他多くの個別銘柄の斜線と比べても、たいへんわかりやすく、観測しやすい。
1999年2月に、それまでの下落の流れを表していた上値斜線Aを上に切った。上値斜線Aは、この図に現れる以前からの抵抗線で、幾度と無く頭を抑えられていたという事実からすれば、その信頼性は高い。ここは投資方針を「売り」から「買い」ベースに替える転換ポイントだ。
その後株価は順調に上昇し、下値斜線Bを陰線で下に切ったのは2000年3月だ。今からこの図をみればなるほどと感じるであろうが、この時に新規に信用売り玉を建てるのはかなりのリスクがある。
この斜線切りは「利益確定」の売りサインだ。実際に信用売りを仕掛けるのならば、より売りの力が強いと感じる形をつけてからになる。
ITバブルといわれた2000年の高値から下落に転じた株価は、その後に少し大きな戻り相場を形成しながら、大きく下落。少なくとも、2001年の戻り高値を過ぎてからは、「下げ方向」での売りベース(信用売り主体)の投資となる。
その戻り高値を過ぎた後に引線できるのが上値斜線Cだ。この大きな下落の流れを、きれいにとらえていることがわかるであろう。その上値斜線Cを上に切ったのが、2003年6月だ。
先程の下値斜線Bを切った時は、底からの上昇値幅からみれば十分に上げの老境相場といえるものの、底にあったときからの時間(日柄)は1年程しか経っておらず、売り転換ポイントとしていくつかのリスクを抱えるといえる。
しかし、2003年6月の上値斜線切りは、過去のチャート上の値動きと比較しても、下落の値幅、時間はともに十分に満足しているといえよう。
更に、それ以外の細かい注意点も、多くの「売りの力」が弱まって、「買いの力」が増したことを表しており、かなりはっきりとした買い転換ポイントといえるであろう。投資する方向が、「売り」から「買い」に転じたととらえるところだ。2007年8月もわかりやすい。
このように、日本株全体の方向(上げ、下げ、あるいは保ち合い)をつかめば、投資方針がわかる。
すなわち、TOPIXあるいは日経平均株価が「上げ方向」のときは、買いベース(買い主体)で投資をおこない、「下げ方向」のときは、売りベース(信用売り主体)で投資をおこなうのである。現物買いのみで投資をおこなっている投資家ならば、「下げ方向」のときは休みだ。
もちろん、この方向に投資をしなくてはいけないということではない。
ただ、日本株全体が上昇するときは、東証1部の7割方が上昇するような全面高の相場が続き、例え銘柄選定が多少うまくいかなくても、「買い投資」ならばその後に上昇する可能性は高い。
これが、リスクを小さくするということなのである。
いくら個別の「良いニュース」が流れようと、日本株全体の流れ(下げ方向)に逆らった投資とは、大きな川の流れに逆らって上流方向に泳ぐ(買い投資をする)のと同じで、たいへん(危険)なのである。
今までの投資経験を思い出していただきたい。
株式投資(買い投資)で資産全体が大きく増えたときとは、必ずといってよいほど日本株全体が上昇しているときであったであろう。
逆に、大きく資産が目減りしたときとは、日本株全体が大きく下落したときであろう。全体の流れは、常に把握する必要があるのである。
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